Stage/stage2

演目 劇団・プロデュース 場所 日時

オイル

野田地図 シアターコクーン 2003年4月26日ソワレ

 

作・演出・出演

野田 秀樹

出演

松 たか子・藤原 竜也

小林 聡美・片桐 はいり・山口 沙耶加

北村 有起哉・橋本 じゅん・土屋 良太

進藤 健太郎・小手 伸也・山中 崇・越志 マニング

 

 

劇評

最近の野田秀樹は、

描いた人物の想いを透き通った感動へと昇華させるすべを

身につけたように思える。

「売り言葉」の最後の「檸檬」の朗読の部分しかり

今回の松たか子の最後のせりふしかり・・・

あるレベルを凌駕した役者によって語られるせりふは

重く、しかし透明感のある空間を舞台の上に作り出し

やがて包み込むように観客席に染み渡っていく

 

松たか子が良い。

目に力があって彼女に与えられた立場を押し切るような強さがある。

戯曲のメッセージを託されたとき押しつぶされない強さ

そのメッセージが自らを孤立させるようなものであっても

倒れることなく立ち尽くすような強さがある。

二機の飛行機にオイルが装填されて

飛び立っていく時・・・

9月11日のWTC崩壊の事件を思わせるシーンや

イラク戦争を想起させるさまざまなトリガーを背負っても臆することなく

その先にある神に呼びかける松たか子の姿は

もはや物語や既存の事実への解釈では解決できない真理の世界すら

観客に想起させる

ストーリーが真理に昇華するのはまさにそのときである

 

松たか子以外の女優陣も大健闘である

片桐はいりと松たか子の親子関係が絶妙の間で

舞台をリラックスさせながらも松たか子に積もる思いに必然性を与え

小林聡美のどこか強引な・・・、というかあやうい強さの表現や

山口沙耶加の明るさのなか潜む切実な夢の中身が

アメリカ的正義のもろい側面、追従する日本の無思想ぶりを

しっかりと浮き立たせる。

 

観客が理解しうる世界がしっかりと描かれているから

古事記の世界、時間の概念のない世界の表現が生きる

そして、最後にやってくるもっと生々しい現実達すらも

唐突なものとしてではなく、因果を踏まえた事象として

観客は受け入れることができる

この構図こそが野田表現の真骨頂であることを今回もまざまざとみせつけられた

 

男優陣は野田自身の抑えた演技にあわせるように

藤原竜也をはじめとして隙なく外堀を埋めているという感じ

山中崇、橋本じゅんあたりの手なれた演技には安心感がある

藤原竜也は初見であるが、人物の投げやりな部分を演じていても

暗くなりすぎないような華があるのが良い

 

オイルに結びつけながら

時間の概念を忘れた民を表現する野田の言葉遊びは

いつもほど際立って場内を沸かせているわけではないが

物語の支柱という意味では言葉遊びが

ここ数年の作品のなかで一番核心に使われいるように思える

失われたものへの怒り、湧き上がる復讐心、

支配するものとされるもの、その関係の中で生きるということ

そして死んでいく者と残される者

オイルという言葉に含まれる意味の広がりが

物語を簡潔にしなおかつ深く広げていく

 

古事記を透かし絵のように見せながらも

モチーフは軸がぶれることなく直接的に表現されて

舞台が闇と消え、出演者たちのカーテンコールが始まると

生まれてくる感動に大きな疲労感が隠されていることに気づく

野田が舞台から投げかけたものを自らにとりこんで理解するには

演じるものほどではないにせよ

受け止める側にも体力が求められるのだ

しかし、その疲労感こそ演劇の大きな醍醐味ではないだろうか

 

評価:★★★★★★★★★☆(+)

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