Stage/stage2

演目 劇団・プロデュース 場所 日時

Don't Trust Over 30

HoriPro & Nylon100℃ 青山劇場 2003年5月31日ソワレ

 

作・演出

ケラリーノ・サンドロビッチ

出演

ユースケ・サンタマリア 奥菜 恵

犬山犬子・みのすけ・三宅弘城・峯村リエ・松永玲子

長田奈麻・安澤千草・村岡希美・新谷真弓

廣川三憲・大山鎬則・吉増裕士・喜安浩平・杉山 薫

大堀こういち・藤田秀世・石川浩司・知念寿焼・滝本晃司

秋山菜津子・井上 順

小林克也(声の出演)

バンド

星川 薫(g)鈴木博文(b)青木庸和(key)浜田尚哉(Dr)

 

劇評

ケラの術中にはまってしまったのだと思う

ちょっとダルダルな前半のミュージカルシーンに相変わらずのNylonトーンの笑い

青山劇場のゆったりとしたシートでくつろいで芝居に身をゆだねていたはずだったのに

芝居が終わったときには、前半のちょっとルーズな印象が消えてしまっている

それどころか、上演時間の長さが物語のもつテーマに比例したような重みとしてのこる

ミュージカルの軽い感覚のうらがわにたくみに織り込まれたケラのモチーフに気がつくとき

上演時間自体が何かを表現しているようにすら感じる

 

ケラが表現しようとしたのは過去ではなく

過去の積み重ねでここまできた不安定な現代なのだろう

GSというブームに日本中が乗っかっていた

今から思えば不便でどこか稚拙で貧乏くさいと表現された時代を振り子の錘にして

リアルな現在のほんの1年後に設定された不安な日本が

一見規則ただしく、実は次第にずれながら姿が振り子の影のように描かれていく

地雷・空襲などというイラクを想起させるシチュエーションのなかで

自らの今の幸せが過去からのつながりのなかにある安定であることが表現される

ある種の絶望とすきとおった諦観と・・・

たまの音楽が劇場全体をある種のトーンに染め上げた中で・・・

突き放したような、多少唐突な、どこか透明感のある、達観したような・・・

粋という範疇からちょっとはみだしたような、

心をかるく引っかかれたような・・・

間違いなく観客があとを引くような形でのエンディングが訪れる

 

単純にミュージカルとしてこの芝居を見たら

多分及第点ぎりぎりというところではあるまいか・・・

ナンバーには印象深いものが多く、とくにたまの手がけたものには

印象深い旋律と歌詞が多い

汚物ねたではあるにせよ新谷真弓の歌唱にはとても魅せられた

踊りも、そりゃBob Fosseが作った舞台には遠くおよばないものの

場面に必要な雰囲気をきちんと出していた

その他ミュージカルシーンを思い出しても

ユースケ・サンタマリアが終盤のナンバーでバテていた以外は

不安を感じさせる部分はなかった

結論として、ミュージカルとしては成立していたのだと思う

ただ、ミュージカルとして圧倒的に観客を凌駕させるだけの力はなかった

歌や踊りのなかに鳥肌がたつようなものはなく

ミュージカルと銘打つ必然性もあまり感じられなかった

しかし、たとえミュージカルというふれこみに対しては凡作であっても

戯曲としての「ドント トラスト オーバー30」は非常に高く評価されるべき作品である

この作品はミュージカルという甘い衣をかぶっていても

中身はケラの持つ時代観と世界観の巧妙な表現にほかならない

それどころか、甘い衣やちょっと薄味にすすむ前半のストーリー展開ですら

後半になって物語に焦点が合うとき、まるでボディブローのように観客に効いてくる

言葉では表現しにくい、色で言えば透き通った濃いブルーのような感覚が

エンドロールとともに観客を襲う

ケラの作品には時間の経過に対するやるせない達観がよく表現されるが

今回の作品は中でも最後にやってくるリキッドな透明感が強い

 

閑話休題

この作品役者のクオリティはかなり高い

ケラのもとには本当に多彩で達者なタレントが集まる

 

秋山菜津子がとにかくすごい。パワーがあり観客をむりやり引きずりこむような勢いがある

、「人間ご破産」の舞台でも

片桐はいりを凌駕する演技で、注目をしていたが

今回の演技は間違いなく舞台のパワーをひとりで2割ほど上げていた

 

奥菜恵は目鼻立ちのはっきりした演技をする

真正面から観客に訴える説得力のようなものを持っている

視線に力がありちょっと引くような演技をするときにも

存在感が減退させずに舞台の上に残すことができる

 

ユースケ・サンタマリアも良い演技をした

彼が本質的にもつやさしさのようなものが脚本にマッチしたのかもしれないが

それだけではなく、台詞に流れるような自然さがあり、しぐさにも無理がなく

なおかつぼけるような部分に非常にすぐれたタイミングを持っている

長台詞が少し単調になるきらいはあるが、芸達者な他の役者も負けない才能を感じた

 

井上順にはほれぼれする

芸というのはあのようなものなのだろう

台詞回しなどが特にうまいという気はしないのだが

多少設定上無理のある場面にもまるで空気のようにすっとはいりこんでしまう

ところで同じような才能はナイロン100℃の松永玲子にもあって

彼女も場面ごとのパワー配分というかバランス感覚がとてもうまい

舞台というのはこのような才能がはいると一気に奥が深くなる

 

その他のナイロンの役者で言えば犬山犬子には

間口の広さがある。

新谷真弓には自分の世界がきちんと確立されているし

なおかつ人をひきつける天賦の才能を感じる

また、今回のような役柄での新谷の身体が硬そうな演技というのは

とても雄弁に役柄上の彼女を語っていて見るものにとってわかりやすい

村岡・峯村・長田・安澤といったところは

手馴れているというか大きな舞台であればきちんとそれなりの仕事をする力、

加えて十分なゆとりと安心感を演技に感じた

特に村岡・峯村あたりはこの人でないと舞台のニュアンスが変わるほどに

個性が磨かれてきている

杉山薫も久しぶりに見たが、しっかりと腰を落ち着けた舞台であった

 

男優では三宅の使い方がちょっともったいない気がする

みのすけの安定感は相変わらずで

これには文句のつけようがない

 

この作品はケラの世界観を縦糸に織り込みながら

ちょっとチープなミュージカルの味付けをしてみたしたという

ケラの才能と少しの遊び心をオブラートにした実は重いモチーフを持った作品だと思う

このような二律背反を成立させるところに彼の岸田戯曲賞が

フロッグではないことを感じさせる

 

ただ、しいて言うならば

ここからケラはどこへ行くのだろうとも思う

彼の才能はどこに向かうのだろうと、不安/期待の両方を感じてしまう

 

しかし、芝居というのは次に期待だけを残す才能というのは長続きしないような気もする

その一抹の不安こそがケラの才能の証なのかもしれない

 

評価:★★★★★★★★★☆(+)

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