| 演目 | 劇団・プロデュース | 場所 | 日時 |
小林秀雄先生来る |
壱組印 | シアタートップス | 2003年6月14日ソワレ |
作:原田 宗典
出演・演出:大谷 亮介
出演
伴 美奈子・さとう こうじ・藤崎 卓也
草野 徹・大津 健二・水内 清光
劇評
最初はもたもたした芝居かと思った
津軽という土地柄の上手な表現のようにも見えるが
つかみとしては若干乱雑な感じもした
しかし、役者の演技が真摯であり、
脚本に無駄な遊びや冗長な表現がないことから
ストーリー自体がよどむことは一切ない
原田脚本・大谷演出は舞台上の時間の流れをゆったりと保ちながら
さくさくと物語を進めることで
すっきリとストーリーの輪郭を表していく
ある意味オーソドックスな作劇であり
最初の数十分には若干平板な印象があるのも事実である
しかし、それが陳腐な印象を与えないのは
台詞の一つ一つが捨てられることなく次の物語展開につなげられていく
台本のうまさだと思う
そして前半多少平板なストーリであることすら
大谷亮介の超長台詞を生かすバランス感覚なのかもしれないと思う
それにしても大谷亮介の演技はここ何年に見た男優の演技の中でも出色のものだった
そもそも大谷亮介が登場した瞬間
まるで絵本が突然立体になったように舞台に陰影がつき
今まで埋められていた伏線が一気に生気をとりもどす
それまでのシーンが大谷亮介登場のために雌伏していたようにすら思え
大谷亮介をめぐるまわりの動きの中で
一人一人の役者の所作がとても味わい深いものに思えてくる
昔、「箱の中身」を見たときに味わったあの感じ
物語にふっと色がつくような・・・
大谷亮介の演じる小林秀雄が語る「雑談」の
味わい深さはどう表現したらよいのだろう
包み込むようなやや低い声質、
聴衆と同じ目線で語りかける謙虚さと尽きない知識を感じさせる語り口
壱組印を見に来ていることを忘れて津軽の一住民になったような錯誤を感じさせる
大谷亮介の演技に久しぶりに「酔う」という言葉を思い出した
芝居の屋台骨として、ある意味すべてのリスクを背負うようなシーンを
作家に書かせる役者・・・。役者の力量を十分に満たす台詞を書き綴る作家
観客はその力にこそ酔いしれるのである・・
役者はみな相応の力をもって舞台を支えているが
大谷以外では伴美奈子の演技が光る
もともと、彼女の演技にはベースに骨太の力強さのようなものがあって
フィリピーノのたくましさを怪演できるのも
彼女のそのような資質があってこそなのだが
同時に役の持つ強さの裏側にある繊細さを
非常に自然な形で表現できるのも伴のいいところである
フィリピーノの二面を演じるということではなく
ひとりのフィリピーノを演じる中で二面が浮かび上がるような・・・
何気ない演技でありながら物語の深さを支える上で
伴の演技はなくてはならないものだったと思う
シアタートップスのさして広くない客席を
しっかりとつかんだ壱組印
大谷や伴の演技をみるにつけ、演劇というのはこの上もない贅沢な道楽だと思う
酔いのあとにやってくるのは至福の時間
壱組印の次の作品がとても楽しみになった
評価:★★★★★★★★★☆( ー)