Stage/stage2
演目 劇団・プロデュース 場所 日時
青十字

Kera Map #002 三鷹市芸術文化センター 2003年8月10日マチネ
 

作・演出 : ケラリーノ サンドロビッチ

出演

小村裕次郎・林和義・町田カナ・伊達暁・玉置孝匡

千葉雅子・林聖子・河西健司・原金太郎・植木夏十

山田真歩・廻飛雄・今奈良孝行・市川しんぺー・依田朋子

鈴木芳・深澤千有紀・村上大樹・野間口徹・旗島伸子

川田希・湯澤幸一郎・弘中麻紀・山崎和如・佐藤竜之慎

 

劇評

 

連合赤軍事件を借景にした作品。

作り手に史実を表現する意図は微塵も感じられないが

教条的な価値観を標榜する集団の建前による自らの拘束と個々の本音のすれちがい

矛盾が露呈し組織が崩れていく過程のなかで

もうはるか昔になってしまったとはいえ観客にとって連合赤軍の一連の報道が

まるで物語を盛り付ける食器のように物語を受け止める受け皿になっていく

 

この作品の中で、ケラはいくつかのストーリーを三つ編のように絡めて

想像された土地におこる物語全体をつつみこんでいく

革命戦士たちが隠れ住んでいる世界、心中志願のカップルの世界、ロケハンの世界

それは、革命に絶対的な価値観を持たせることを自らに課して人々のストーリー、

絶対的な価値観を受け入れることのできない人々のストーリー

そして絶対的な価値観に意味を見出さない人々のストーリー

ストーリーの間をまたぐようにいくつかの伏線が太い網目のように張られて

皿の上の料理がこぼれないように支えられている

 

ストーリーの中で、最初常識的に見える人々の狂気が次第に開示されていくと

どこか狂っているように見える人々が

正常の範囲と彼らが直面する現実のなかでゆがみを持っているのだということが

だんだんにわかってくる

ひずみのなかで正常でいることが

実は狂っているという論理的でありながら不可思議な構図

それはある種のホラー的感覚すら観客に呼び起こさせる

 

一方でケラはさりげなく基準点となる人々を配置する

それはたとえばクラブハウスサンドが崩れないために刺された爪楊枝のようなもの

心中したい女やロケハンの女性の存在、

さらには死の向こう側からの視点が

この物語を形の崩れたスプラッターもどきの無国籍料理ではなく

しっかりと盛り付けされた小粋なジビエに昇華させている

 

ストーリーは後半になると狂気に至る

革命を至上としてきた人々に

カタフトロスがやってきて

教条的な制約のなかで生きてきた人々の価値観が崩壊していく

ケラはカタストロフへの導きをなにげに、しかし丁寧に行う

特にカタストロフにいたるまでの苛立ちの表現が実に巧みで

叫ぶような台詞の多さが、舞台上に飽和していく不安や傲慢さや焦りを見事に表現していく

そして、崩れ去ったあとにくる放心したような時間の表現もまた秀逸である

ケラリーノサンドロビッチ(以下ケラ)は記録としての事件を最後に

ある登場人物がリンチの記録を読んだというかたちで明かす。

記録も事実を借景にしたフィクションなのだが

観客はモノクロのニュース映画で出来事を見るように

舞台上の事実として創作された前提を確認する。

まるで、食事が終わったあと、皿の模様に気が付くように

観客は自分が見たものの背景を物語のフレームとして再認識し

料理とそれを盛り付ける皿が提示するものを悟る

そして

物語が豊かな質感と絶妙なバランス感覚で提示された

常軌と狂気をもう一度反芻するとき

観客はケラのしたたかさにあらためて舌をまくのだ

 

役者のなかでは依田朋子の出来がいい。

彼女が、正常な感覚を、力むことなくメリハリとゆとりをもって演技していることで、

狂気の本質がくっきりと浮かび上がっていく

旗島伸子もロケハンのグループにおいて同様の役割をしており

決して出来が悪いわけではないのだが、依田朋子の持つ

自然な深みのようなものが今ひとつ足りない

ただし旗島には舞台全体を一気にさらうような底力があって

それ生かされるような役柄が与えられれば

並みの役者にはとても届かないような演技ができるようなキャパを感じる

 

上記の二人以外の役者も非常に高いレベルにあるので

見ていても不安がないしストーリー運びがとてもスムースに思える

きちんと伏線が生きるのは設定のよさもあるが

半分以上はきちんと仕事をしている役者の力であることに疑いはない

林和義や町田カナの地道な演技があるから

狂気の世界のなかでの常軌が説得力をもち

観客は舞台に自分を預けることができる

村上大樹や野間口徹のいらだちもスケールが物語にしっかりはまっていて

このあたりはやっぱり舞台全体を見据えての演技ができる役者の能力のなせる業なのだとおもう

警官役を演じた山崎和如の一瞬の狂気もすばらしかった

最初からきちんと伏線を張っただけのことはあるというか

観客に巾着袋の口をキュっとしめるような充実感を与えるに足りる演技であった

 

ケラにとってもこの作品は代表作のひとつになるのだと思う

すくなくとも彼が作った作品のなかでも一番のしたたかさを内包している作品である

三鷹の小ホールで演じる作品としては作品の間口がとても大きく

それゆえ観客はちょっと贅沢な量感をこの芝居に感じたと思う

バランスのとれた質感と十分な量感が同時に得られる作品など

そう簡単にめぐり合えるわけではないのだ

 

評価:★★★★★★★★★☆(+)

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