Stage/stage2

演目 劇団・プロデュース 場所 日時

西へゆく女

オリガト・プラスティコ 下北沢 本多劇場 2003年9月14日マチネ

 

作:岩松 了

演出 : ケラリーノ サンドロビッチ

出演

広岡由里子・宝生 舞・渡辺いっけい

長塚圭史・八十田勇一・安澤千草

矢沢幸治・鈴木リョウジ

 

劇評

ある意味難解な作品だとおもう

舞台上のシチュエーションと現実を結ぶ糸に色がなく

観客には現実と虚構をつなぐ糸が透き通って物語の中に埋もれて見える

しかも、

作家と演出家の相性のようなものが

物語のコアの部分を迷彩色のように塗りつぶしてしまった感もある

あるいは確信犯的に物語のコアをあいまいにしてしまったのか・・・

もしくは意図的に舞台上に投影される現実の姿をあいまいにしてしまったのか・・・

 

舞台の物語から透けて見えるのは

昔養護施設でおきた殺人事件を思い出すシチュエーションであるが

(甲山事件?保母の方が有罪と無罪の間をいったりきたりした事件)

それ以外にもいくつかの現実に起きた出来事をバックグラウンドに感じる

ただし、それらはすべてあいまいのうちに始まり

あいまいの中に消えていく

 

舞台上の空間は閉塞されているようには定義されていない

最初は開かれた世界の中に存在する元幼稚園の家として空間は定義される

しかし、キジが何度か鳴き、トキが姿を現すたびに

空間は閉塞し、ループのごとく終結して出口がなくなっていく

 

いらだちが膨らみ始める

しかしいらだちが飽和することはない

むしろ苛立ちまでが次第に乾いてもろく崩れていくのを感じる

 

まるで酸素が不足していくように

舞台上の空気に柔らかなもやがかかったような感じがする

 

トキという名前が暗示するもの、キジの鳴き声が示すもの

失われたルポライターのポートレート

暗示するものがやわらかく浮かび上がってくるのだが・・・

しかし明確にそれらの定義がされるわけではない

ただ、不可解に煮詰まったような空気が舞台を支配する

 

ケラリーノ・サンドロビッチ(以下ケラと表記します)の演出する作品には

空間密度の濃淡が必ず存在する

決してベタに舞台が作られることはない

彼が自ら作ったストーリーに空間密度の濃淡がのった時

舞台上の奥行きはまるで魔術のように広がる

岩松了の描く作品において

モチーフは会話の温度で表現されていく

ベタな物語に温度がのったとき

ストーリはまるで生き物のようにうごめき始める

 

時間と事象、事実と虚構

一部を切り取ったような情報

 

多分、この舞台を難解にしているのは、すべてがケラの巧みな濃淡付加の技術で

本質をオブラートでつつまれたように提示してみせているからだと思う

それはミノルをめぐる理不尽さに対しての表現としては

非常に秀逸なものに思われる

ただ、一方で岩松了の作品との相性と言うことを考えると

ケラの演出に見られる意図したあいまいさのようなものが

岩松了の作る温度を吸収してしまっているようにも思える

 

岩松了の作品のもつバランス、危うさを棒の両方にぶら下げて綱渡りをするような台本の上を

ケラの演出で役者は平面でもあるくように渡ってみせる

その妙な平板さは

命の重さがトキやまわりの思惑とともに色を変えていくことの

ケラ一流の表現なのかもしれない

しかし、ステージ上のケラの意図を確信するだけの

トリガーが少ないことから

観客は物語全体を背負って本多劇場の階段を下りるとき

やっとその重さを漠然と感じることになるのである

まるで、初めて食したエスニック料理の違和感が

辛さだとわかるのに一瞬の時間がかかるように・・・

 

広岡由里子は岩松了のテイストに沿った演技をしていて

これは正解だったと思う。自分の世界を持っていることに好感が持てた

宝生舞の演じるトキの柔らかさは

この舞台に難解さと物語の意図の正確な表現という一見相反するイメージを与えた

彼女にしかできない演技が存在することがよくわかった

安澤千草は非常にオーソドックスな演技であったが

彼女の演技力が舞台と客席をつなげていたともいえる

渡辺いっけい・八十田勇一は手馴れた演技でしっかり舞台のフレームを作っていたし

長塚圭史の演技は舞台をしっかり動かしていたと思う

矢沢幸治・鈴木リョウジは初見であるが弱さと強さがしっかりした演技がよかった

 

問題は、温度と密度のアンバランス・・・

それはある意味慣れの問題なのかもしれない

エスニック料理が日本に根付くのだって相応の時間がかかったのだから・・・

岩松という素材にケラの香辛料という

テイストが受け入れられて難解という批判がはずれるにも

やはり時間が必要だということではあるまいか

 

評価:★★★★★★★★☆☆(+)

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