| 演目 | 劇団・プロデュース | 場所 | 日時 |
やや無情・・・ |
双数姉妹 | 新宿THEATER/TOPS | 2003年10月12日ソワレ |
脚本・演出 : 小池竹見
出演
佐藤拓之
野口かおる・小林至・大倉マヤ
中村靖・阿部宗孝・吉富光宏・近藤英輝
五味祐司・古山憲太郎
吉田麻紀子・井上貴子
中村彰男
劇評
シンプルなストーリーなのだと思う。
刑務所という閉塞した空間のなかで
心理学的更正教育の延長として、実際の劇団から演出家が招かれ
受刑者が更正教育の一環として演劇を強要される。
ストーリーは彼らの実態とつながりを持つように作られており
受刑者はとまどいと苦悩を強いられるが
やがて看守までも巻き込んで芝居はふくらみを見せる。
事情により外部施設での公演は中止がきまるが
芝居は自らの世界を持ち、朽ちることなく最後まで観客に提示される。
双数姉妹の実力において
小池竹見が自らのモチーフを舞台上に表現するには
この程度のスキームで十分だったのだろう。
また、この単純なスキームだからこそ
演劇の本質や価値が非常にわかりやすく提示されることになった。
最初に提示される家庭劇シーン(劇中劇)のなかで
芝居の基礎がつくられていくあたりは
どこかステレオタイプで
まるで紙っぺらのように薄く色のない感じがするのだが
公演という目標がきまり、プロの役者が入り、脚本が配られ
次第に芝居の形状が固まっていくと劇中劇にも色と厚みができてくる。
劇中劇自体はソープオペラのようなストーリでもあるのだが
ここからが双数姉妹の役者たちの本領発揮で
看守が劇中劇の空間に巻き込まれるころには
しっかりとした世界をもった芝居に仕上がっていく。
人の心理の綾、ためらい、とまどいが実に丹念に描かれ
囚人たちのまとっている番号つきの服がまるで魔法のように消えていき
リアルなドラマがしっかりと舞台上に現れる
この劇中劇の完成度があったからこそ
外側の演劇空間において劇中劇が公演中止という事態になったなかで
芝居が演じ続けられることに説得力が生まれ、
演じ終えた囚人や役者、そして看守の礼(bow)と
観客の場所にいた者の礼という演技に妥当性を与えることができた。
演じること、そして演じられるものを受け止めること、
劇中劇の出演者たちがさらに舞台の外にいるリアルな観客に背をむけて
舞台の中にいる仮想の観客に礼をする瞬間は
演劇の中で演劇自身の本質を提示するという
一見非常に困難に思える作業が
見事に、しかも鮮やかに果実をつけた瞬間だった。
最初のシーンで心理学の先生が殺風景な刑務所の一室に
4つの椅子で演劇空間を作るところがある種の伏線になっていて
最後に傍観者であった刑務所の職員が演劇空間に頭をさげた時
伏線が繋がり、
さらに外側の傍観者に鋭い感動が舞い降りてきた。
小難しい理屈などなにもなく
あくまでも物語のなかで
気負うこともこれ見よがしのけれんもなく
劇中劇となるソープオペラに内包されたたっぷりの肉汁をしたたらせる力で
外側の芝居のなかでさりげなく演劇の本質を提示してみせる
小池の演劇は賞賛されるべき新しい境地を迎えたのかもしれない
役者も見ていて安心感以上のものがある。
中村・阿部・吉富・近藤らの囚人がしっかり背負っている影を演じ切ることは
この芝居の骨格を維持する上での絶対条件であったと思われるが
彼らはそれを成し遂げ
なおかつ彼らの動きの鋭さが刑務所内の緊張感のようなものをみごとに作り上げていた。
吉田の暴れるような切れ方は定番ではあるが、
一方で舞台のすみにいる際の影的な演技がしっかりあり
そのことが彼女の存在を舞台のシチュエーションに見事に溶け込ませ
劇中劇の幅を大きく広げていたと思う
佐藤の演技はしっかりと抑えられて、しかも全体のトーンを作るだけの力があり
井上、中村にも役者を演じて役者を超えるような熟練度の高さを感じた
古山の人間味と五味の融通の効かなさもある意味当たり役で
特に劇中劇に取り込まれてからは彼らのキャラクターがうまく機能していたとおもう
小林・大倉はとても地味な役回りであったが
大倉の持つ知的でどこか理想主義な女性の雰囲気と
小林が演じる役人的な傍観者の視線がなければ
芝居にこれだけのふくらみはなかったに違いない
野口の演出家・・・・・、やっぱりうまい。いろんな意味で・・・
今回の双数姉妹では今林や小野といった
これまで舞台のコアを握っていた人間が外れている
それでもこれだけの舞台を提示できるのは
劇団の力が
個人の力だけに頼らなくても維持できるだけのキャパを内包した成果に
ちがいない
主宰の小池はやや小ぶりな自家用車を見事にチューンアップして
どこでも高速走行ができうる超高性能車に変身させることに見事に成功したのだと思う
この車で小池はこれからどこへでかけていくのだろう
来年の夏が次回公演だそうだが
彼が観客をどこへ連れて行ってくれるのか
とても期待させてくれる今回の舞台であった
評価:★★★★★★★★★☆(+)