Stage/stage2

演目 劇団・プロデュース 場所 日時

しかたがない穴

Agape Store 紀伊国屋サザンシアター 2004年3月4日ソワレ

 

作:倉持 裕

 

出演

松尾貴史・山内圭哉・小林高鹿

秋本奈緒美・松永玲子

 

劇評

決してとっつきが良い芝居ではない

しかし

芝居を見ていると、最後まで耐えるような苦行の時間が大きな興味に変わる時間がある

どこかでスイッチが入るような感覚・・・

 

正直いって

始まってから10分から20分の間、

耐えるような時間があった

笑いがないわけでもなく、見るべきものがないわけでもない

ストーリーが著しく停滞しているわけでもなく

舞台上の緊張感もしっかりある

ただ、そこには間違いなくいごこちの悪さのようなものが存在していた

それが、きっかけもないままにスイッチが入り

一度引き込まれるととことんひきこまれた

たとえば芝居に内包されていたいくつもの挑発に

私自身のなにかが反応したのかもしれない

たとえば謎解きに自分の好奇心がのめりこんでいったのか・・・

舞台上の登場人物の苛立ちが乗り移ったか・・・

あるいは登場人物が次第にあらわにしていくずれのようなものに

一緒になって引き込まれていったか・・・

いや、なによりも無機質な舞台設定の普遍性に惹かれたに違いない

 

この芝居が一番優れているのは

シチュエーションの作り方と登場人物間のリレーションの間(ま)のようなものが

とても巧みな点にあると思う

六角形の同じ作りの部屋に感じる違和感という設定は

一見特異なものに見えて、実は個性と画一化の微妙なバランス上にある空間を創造している

それは、たとえばありふれた学校とかオフィスという空間にも匹敵するバランスである

そこで行われる自らの意思によらない、意識されることもない変化は

登場人物を少しずつ外に想定された空間での自らの存在から切り離し

妄想とさえ思える自らの内側の世界を露出させる方向へと導いていく

中心にさまざまな妄想・自らの存在の誇張などの

よりどころとなるガルガル人が設定されて

しかもガルガル人の登場人物が自らのテリトリーとしている位置から

移動していくことにより自らを支えるものが変化していく

しかもガルガル人自身も、その環境が生み出した妄想の果実にすぎないことが

最後に提示されて、観客は完全に物語に飲み込まれることになる

たとえば席替えやレイアウト変更といった

同じビンのなかでの微妙な関係の喪失と生成が

突然思い出される・・・

そこから派生する小さな見栄っ張りや嘘・・・

思い出したときの気恥ずかしさ

どこからともなく蘇り、心の行き場がなくなる

 

この芝居のバンフレットにはネタばれとして芝居の解説があるのだが

作り手が述べる芝居の本質と観るもの(私)が感じる芝居のコアに違いが生じている気がして興味深い

パンフレットによれば

「部屋や自らの持ち物で自らのアイデンティティを守ることができなくなった登場人物は

自らの能力(職業)最後の砦を築くことになる」

「架空のアイデンティティにすがる人々が形成するミニ社会は、すべての『よりどころ』を失い

恐怖の空間へと変貌していく」

とある

しかしながら観客からみると因果の方向性が逆で

本来持っている狂気を発露させるのがありふれた企画的な空間と

たとえば学校や会社に存在するステレオタイプの妄想であるところに

そこはかとない苛立ちを感じる

逆?いや劇場のなかでは双方向の因果のなかに観客は置かれているに違いない

たとえば学校や会社などありふれた存在の、そのくせ一方で個性的な閉塞空間では

人は多かれ少なかれある種の特有の価値観を熟成させていて

それらに自らは気づいていない

この芝居では舞台上の非日常が観客の日常のミラーになって

役者の演じる狂気が自らが内包する狂気に共振する

そして自らが日常を過ごす空間が舞台上の正六角形と同質であることに気づいた時

逆説的に自らがすごす時間がある種の狂気に満たされていることに思い当たり

観客はその狂気の行く末を凝視してしまうのである

 

今回の役者は猛者ぞろいであるが

単にうまいというだけではなく輪郭のはっきりした演技で成功していた

これはG2のファインプレイでもあるとおもう

松永玲子の役者としてのフレキシビリティには今回も感心するばかりだが

時にエキセントリックになる台詞回しにもしっかりと意味が込められ

彼女の資質の高さがはからずも強調されていた

今回は松尾貴史の持つ演技の深さにも惹かれた

ふっとシリアスになる時の顔がいい

秋本奈緒美は初見であるが心地よい強さを持った演技が舞台上で

しっかりした存在感を提示していたし

小林高鹿は狂気を引き出す側にいながら、逆に狂気に一番近いような部分があり

難しい役柄であるが、淡々とした演技が逆に彼自身の演じるキャラクターを

際立たせて見せた

内山圭哉の芯を持ったコントラストのある演技に余裕があって

演じる人物の強さだけでなく強さにつつsまれた弱さまでも

見せてくれたように思う

 

倉持裕の作品は初見であるが

理科系の見方で事象をしっかりと提示する力があると思う

しかも

効率よく理詰で表現するものがきわめて繊細な感情の動きであるという

その不思議さにも惹かれた

なにか麻薬物質のような感覚を見るものに感じさせる作家であり

今後の作品に大きな興味を抱いた

 

評価:★★★★★★★★★☆(+)

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