日時 劇団名 タイトル 会場

’05.3月6日 ソワレ

鈴置 洋孝プロデュース

ムーンリバー

シアターサンモール

作・出演: 桑原 裕子 演出 : 堤 泰之

出演:

麻生美代子
 和田太美夫 高島雅羅 中野順一朗
鈴置洋孝 田中完 関俊彦 大谷典之 
藤本樹子

On Stage Band:
bAsHEE Wacha 
よしこちゃん
Jyun Gakkie 高戸渉
(Monster Jam)
 

決して悪い作品ではないと思う。
観客が十分に身をゆだねることができるレベルの役者が
手馴れた演出のなかで物語を進めていく
浮いている役者もいないし、みんなしっかりと自分の世界を作り上げて
それらが次第にからまりあっていく
目から鱗が落ちるような芝居ではないが
いわゆる等身大のお芝居が展開していく
クオリティは十分に高く見ごたえも相応にある

ただ、問題があるとすれば
桑原裕子の脚本が切れすぎているというか鋭すぎること。
彼女の紡ぎだす台詞は
ウイットにあふれ、バリエーション豊かな笑いを観客から引き出す
また、小さな台詞に巧みさがあり
時には台詞を発する側だけではなく
台詞の向こう側にいる他の登場人物の想いも浮かび上がらせる
ただ、それらは、ある意味この舞台には
洗練されすぎている気がする

言葉の流れや、概念のようなものが
舞台が始まって中盤すぎまで
なんというかおいついていかない感じなのだ
それは舞台装置とのアンマッチだったり
出演者とのアンマッチだったり
時としては客席の雰囲気とのアンマッチだったりするのだが
なんとなく波長のあわないような居心地の悪さが
ふっとどこかに顔を出す

もし、小劇場の芝居のように
端折るべきところと強調される部分のメリハリをもっと強くして
この戯曲が演じられたとすれば
言葉や出演者のイメージはもっとふくらみ
台詞と舞台の内容がぴたっとくるのだろうが
これだけしっかり作られた舞台装置の中で
現実から乖離することができない芝居空間を構築されると
彼女の紡ぐ台詞のいくつかは
しみこむべき土壌を失ったようにすら見えてしまう
役者もしっかり役を作りこんでいるだけに
(というか作りこんで大向こうを唸らせるような
能力のある役者を集めているだけに)
あまりケレン味の強い芝居は出来ない感じがする
いくつかの台詞や動作が討ち死にしたあとで
台詞のすべてがしっかりとなじんできたのは
停電のあとクリスマスのライトをグランマが美しいといったあたりからか・・
前半から一貫して物語の筋も通っているし
決して悪い台本ではないのだが・・・

後半、役者の台詞が
物語のながれや伏線の向こう側に裏打ちされて
踊り語られるようになると
言葉の巧みさに物語の巧みさがおいついて
心を打つ物語や言葉が観客を捕らえていく
そこにたどり着くまでは脚本のふくらみや切れの部分が
どうしても浮いて見えてしまうのだ
桑原裕子の才と出演者の芝居との間で
演出家はけっこう苦労をしたのではあるまいか

終わってみれば心に残るものをいくつも残してくれた
佳作ではあったのだが・・・

役者は・・・ひととおり全員うまい
麻生美代子が良い味をだしている
老女のしたたかさにきちんとした説得力があって
その重量感のようなものが
物語のしっかりとした枠となっていた
鈴置や関、そして高島といった役者たちも
どこかねたっぽい部分がある役柄だが
奇を衒わずしっかりとした存在感を維持したことが
最後の10分で生きたというか報われた
中野・大谷といったところも不安感を一切与えない演技で
好演の部類だと想う
中野の線の細さとがんこさ、さらには
一種の従順さの表現もよかったし
大谷のある種のあたたかさは麻生や藤本の持つ
化粧の下の人間らしさのようなものをを十分に抽出していた
桑原裕子には今回も十分パワーがあった
ただ、もう少し繊細な演技が出来る役者なので
ちょっともったいない気もする

今回、藤本樹子の魅力をどう伝えればよいのだろう
一番ぞくっときたのは一番最後のバーテンダーの愛を受け入れる一言だが
そもそもプロのキャバレー嬢としての姿を表現する中で
自分のペースやそれを守る強い意志が
押さえた演技ややわらかい笑顔に
しっかり表現できているのがよい
琴線にふれるという言葉があるが
しっかりと観客の琴線に触れるなにかを持っているから
桑原裕子演じる新人嬢との対照が生きる
HPでプロフィールを見る限り
これまであまり舞台出演も多くないようだが
演技の中に含蓄を大きく持たせることができる女優さんであり
まだまだ活躍できる場所がたくさんある役者だと想う

まあ、いろいろとマッチングの問題などあるにせよ
今回の桑原裕子脚本、
伏線の張り方も
物語のふくらみや展開もよいし
何よりも気持ちの綾織をきちんと図柄にできる才能は
他の作家と比べても秀でたものがあることを
今回の作品を見て再認識した
なにより冷徹さとあたたかさとご都合主義のバランスが絶妙である
同系統の才能を持つ人としては、飯島早苗を最初に思い出すが
飯島脚本に比べて彼女の作る世界は
感情の糸がもっと太い印象がある
しかし、別の糸の裏を通った気持ちが再び表にでて
また何かの後ろに隠れてという構造は基本的には同じ
飯島が稀有な才能の持ち主であるとすれば
桑原の才能もまた十分に評価されうる価値があると思う

物語の最後、ちょっと意外な模様を含んだ綾織の全てを見たとき
言い換えれば桑原の切れに舞台が追いつくのを見たとき
理屈とかではない何かがきちんと心を満たしてくれた

藤本樹子も含めて
良い才能がきらりとひかるものがそこにある舞台は
終わってみればやっぱり観客を満足させているものなのである

評価

★★★★★★★★☆☆

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この文章にはいわゆるネタバレがあります。ご了承のうえお読み下さい

劇評

Stage Review 2005