日時 劇団名 タイトル 会場

’05.7月31日 

ケルネプランニングプロデュース

姫が愛したダニ小僧

天王洲アートスフィア

戯曲・演出・出演 後藤ひろひと 

出演:
ユースケ・サンタマリア 富田靖子
高杉亘 佐藤康恵 大路恵美 松永玲子 村松武
山下大洋 山内圭哉 竹下宏太郎 腹筋善之介
ラサール石井

評価

★★★★★★★★★☆プラス

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この文章にはいわゆるネタバレがあります。ご了承のうえお読み下さい

劇評

Stage Review 2005

後藤ひろひとの魔術はまず観客から時間を奪う。休憩なしの2時間30分というのは決して短い上演時間ではないはずなのに、まるで水が流れるように終演まで一気に運ばれたような気がした。

たぶん、一番大きな要素は物語の作り方のうまさなのだろうと思う。最初の物語の提示から派生するように、一件まったく関わりのない別の物語が提示され、双方が双方の物語の切れ目を埋めるように観客の興味をつないでいく。導入の物語はもうひとつの物語を導き出し、しかも消滅することなく奇抜な展開をささえるように、現実を強くにじませてそこにある。もうひとつの物語が次第に奇想天外な冒険物語に変わっていくのに対して、導入の物語はそのトーンを変えようとしない。観客は自分の位置を忘れることなく、冒険物語に身を委ねていく。

 

たとえば、芸術性とか品性とかの尺度で物語を判断するとすれば、この舞台はあまり高い評価をうけるものではないだろう。

しかしながら、舞台が内包する物語自体の勢いや人をとりこんでいく魅力はかなりなものである。物語のルーズさ加減や、お約束の守られ度・はずされ度(そんな言葉があればであるが)が観客にとってとても心地よく、それゆえ物語をすっと受け入れていくことができるのだ。スキームを崩すことなく、しかもぎりぎりまで観客を楽しませるために自由度の高い作りこみがなされた舞台・・・

笑いがとれるキャラクターの設定から物語の展開を支える計算され尽くしたチープさ。

そのチープさを秀逸なアイデアとキャストでつくりあげていくのはある種贅沢であるような気もするが、エンターティメントという切り口から見た場合、このような手法で作られた作品は大当たりが多い気がする。

その最たるものがメル・ブルックスのブロードウェイミュージカル「The Producers」だと思うが今回の作品もそれにちかいものを感じる。 

自動販売機ネタにしてもそうだが、馬鹿げたものであっても、いや馬鹿げたと思われるものに才能あるものがしっかりと意味をつけて真摯に作りこむと通常のやり方では築きえないものが生まれることを再確認した気がした。
後藤のセンチメンタルで透き通った世界をしっかりと舞台のテイストに込めるやり方の秀逸さ、なおかつその世界ともうひとつの現実の世界の道筋を物語のなかに作って見せる構想の豊かさ、ルーズでありながら揺るぐことのない明快さをもった物語を提示する表現力、あるいは下世話なネタをちりばめながらもどこかに宝石のような美しい響きを忘れないロマンチストぶり・・・
それらがまるでブースカフェのように透明感を持って提示されるからこそ、後藤ひろひとのたくらみや思いはしっかりと観客に伝わることを再認識させられた

 

役者ではやはり富田靖子が目をひく。今回一番感心したのは、彼女の瞳の光のようなものが見事に変化するところで、たとえば老人のときのまなざしとお姫様になったときのまなざしの色が違っていたような気さえした。今回の彼女は車椅子の姿もドレス姿も似合ったが、それは衣装ではなく衣装を着る彼女からやってくるものが観客を納得させたからに他ならないと思う。書割のような舞台であっても演技にはそれぞれの役柄がしっかりとこもっている気がした。。

佐藤康江は竹下直人の匙加減以来であるが、今回の作品はきちんと自らの才能にあった役をもらっていて気持ちよく演技をしていた感じがする。とくに演技に伸びやかな感じがあるのがよい。四肢が気持ちよく伸びていることはパンフレットを見なくても十分にわかるのだがそれだけではなく演技にも一歩観客に訴えてくるようなものがあるのだ。

大路恵美もよかった。彼女にしか作れない世界があることだけでもすごいのだが、また、一気に観客を彼女の世界に引き込む力を持っている。「みのほどしらず」には笑ったが、あれは彼女だから作りえた世界だと思う。

松永玲子は相変わらず役にしっかりと染まった演技であったが、今回は加えてさらになにかふっきれたような強さとゆとりが感じられて、それが舞台をしっかりと支えていた。助走をしなくてもこれくらいのハードルは簡単にとべるみたいな余裕というかパワーというか・・・。繊細な演技であれば昔から十分な実力をみせていたが、強さを要求される演技においてもしっかりと勝負できることを今回は証明して見せたと思う。彼女の演技が舞台ごとに進化しつづけるのには驚くばかりなのだが、またひとつなにかを凌駕したようななにかが舞台上の彼女に感じられた。

ユースケサンタマリアはぼけより突っ込みの部分が強い役で、しかも彼にとってもそれがあっているような気がする。他の役者と比較すると力強さのようなものには欠けるが突っ込みとしてのスピード感があり、さらに物語にふっと入っていくような部分でのタイミングに切れがあった。

村松武、高杉亘はともに与えられた役割をしっかりとこなしていた印象。

Piperの5人にはそれぞれに別のベクトルでの安定感があって、観客をいろんな切り口から分業して捕らえていたと思う。中でも竹下宏太郎はキャンディーズに続く好演で、役者としての位置がしっかりと築き上げられた感じがする。腹筋、山内、山下と同様に竹下でなければ表現できない何かが間違いなく確立されてきているのは彼にとって踊り以上の強みになるのではないか・・・

ラサール石井はある意味彼のペースを強いられるような役柄だったが、落ち着いてドラマよりも強すぎず、ドラマに比して弱すぎない演技で好感が持てた。あの物語の中で死ぬのをやめることにちゃんと説得力を与えられただけでも高い評価を受けてよい演技だったと思う。

 

なんというか、楽しんだなぁ・・・という感じの舞台で本当に時間を感じさせない2時間半であったし、4回のアンコールには観客側の気持ちが抜けることがなかった。いい舞台って素直にこういうものを言うのだと思う