日時 劇団名 タイトル 会場

’05.11月03日 

カムカムミニキーナ

越前牛乳

シアターアップル

作・演出・出演 村松 武

出演:
藤田紀子・佐藤恭子・八嶋智人・清水 宏
松田かほり・山崎樹範・吉田晋一・今村佳岳
元島祐介・小島啓寿・市子嶋しのぶ・亀岡考洋
坊薗節子

評価

★★★★★★★★☆☆プラス

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この文章にはいわゆるネタバレがあります。ご了承のうえお読み下さい

劇評

Stage Review 2005

越前牛乳は初見である。

一度再演があって今回が3回目とのことであるが、残念ながら評判すら聞いたこともなかった。でも、見て本当に良く出来たお話だとおもった。

 

言葉遊びからの物語の広がりも観客がついていけるだけの節操をしっかりもっている。ちょっとチープな夢の遊民社風という感じもしないではないが、それは普遍性のあるテーマが物語の背骨となっていることと、言葉によって出で言葉によって収束する真理の表現という舞台における言葉遊びの原則がしっかり生きていることによるのだ巧みさから来ているのだと思う。味付けがなんとなく関西風であり、物語の余白にあたる部分も下世話な感じがしないでもないが、物語の展開に創意がみなぎりしっかりと観客をとりこんだ舞台となった。

まず、舞台にスピード感があるのがよい。過去と未来の不可分性、越前・越後、上杉謙信からさらには現在までもあわせた某百貨店の名前で表わされる世界を取り込んでいく物語には、途中に遊びやアドリブまでがてんこ盛りで入っているのに勢いがそがれず、よどみがない。今、一線級で活躍している作家や役者たちが、円熟とか熟練とかいう境地と引き換えに失った疾走感のようなものが、この舞台には確かに存在していた。

また、舞台の節々でしっかりとした高揚感が作り上げられていたのもよい。Noda Mapの舞台で小西真奈美が演じたような(走れメルス)強く突き上げるような高揚感ではないにせよ、観客がひと膝乗り出すような部分がいくつもあった。

 

今回の公演では、なんといっても八島智人が目を引いた。

彼が非常に優れた俳優であるということは以前から感じていたし、ひとつの劇団の看板役者として以上の評価があることも百も承知だった。NYLON100℃の「消失」に客演したときにも後半に現れるやしっかりと物語を回して見せたことを覚えている

ただ、私の誤解は、私は彼をしっかりとコンサバティブに演技をする役者だと思っていたこと。もちろんトリビアの泉のMC時に見せるつっこみの鋭さに気が付いてはいたが、いったん舞台に立つと着実にしっかりと物語を守るタイプだと思っていた。

ところがどっこい、舞台の序盤が終わって彼がステージに登場すると、物語の色、あるいは舞台を変えてしまう何かを彼は持っていて、しかも自分のホームグラウンドであるということもあって、そこらじゅうに突っ込むのなんのって・・・・。ほとんどいじめっ子が休み時間をいっぱいにつかってクラスをかき回すような勢いで舞台を席巻し客席を一気に笑いに巻き込んでしまう。村松武が座長として保とうとする威厳をあざ笑い、主演女優としての気品を保とうとする藤田紀子のお尻を客席から棒で突かせようとする。
しかしながら、そこまでやりながらも八嶋は物語の裏と表の区別を決して崩すことはない。遊びやアドリブ的な突っ込みのなかにも物語からの出し入れのようなものをきちんと織り込んでいて、勢いがついてもそのバランスを崩すことがない。

彼の非凡さは演技力の範疇をはるかにこえた部分にまで至り、エンターティナーとしての輝きへと昇華する。水を得た魚とはこの劇団における彼のために作られた言葉ではとさえ思う。

 

水を得た魚といえば、清水宏も実によい味を出していた。押さえ気味の演技のなかに彼の持ち味がしっかりと出ていて物語のフレームをしっかりと守っていたと思う。たまにせりふを噛んでいたのにもかかわらず彼の演技がとても堅実に見えるのは、彼自身が作る世界の安定感のようなものが大きいと思う。

 

藤田紀子と佐藤恭子も強さのある演技で、八嶋や村松の演技をちゃんと受け止めていた。牛の演技にちゃんと重さがある佐藤も好演だが、ハイジとクララの部分をしっかり演じ切った藤田の演技には、地味だけれどがっしりとしたパワーを感じた。鋭さはそれほどないのだが、面全体を押すような演技力が藤田にはあって、舞台全体のテンションを上げていくような場面では彼女の演技がおおきな牽引車になっていたようにおもう。

 

ほかの役者も、あたりまえに動きに切れがあって、見ているほうも不安なくふうっと身を任せることが出来たと思う。

 

ここ数年、カムカムミニキーナには勢いがうせたとか今ひとつというような評価があったようだが、少なくとも私が今回の公演を見た限りでは、底堅い実力を内包した劇団という感じがした。ただ、今回のように脚本の充実があるからこそ、個々の演技や遊びがうまく回ったのだろうし、新しい脚本にこれだけ役者をしっかりと演技させる要素を盛り込むことは結構ハードな作業なのかもしれない

来年の5月に北千住で本公演があるそうだが、村松・八嶋が自由にその才を発揮できるようなふくらみを持った脚本を村松が作り上げていけるかどうか・・・。

興味は尽きない。