| 日時 | 劇団名 | タイトル | 会場 |
|---|---|---|---|
’06.1月14日 |
Agape Store |
The biggest Biz |
下北沢本多劇場 |
作・出演 後藤ひろひと 出演 松尾貴史・三上市朗・八十田勇一 松永玲子・菅原永二・坂田聡 篠原ともえ・粟根まこと |
この文章にはいわゆるネタバレがあります。ご了承のうえお読み下さい
Big Bizシリーズの最終作、それだけに過去の作品のエッセンスを山ほど引きずっている。
お約束もいっぱい・・・。シリーズのこの作品を観た人にはわからないシーンも多かったのでは・・・。
もちろん、はじめてみても引き込まれると思われるおもしろさは満載なのだが、3作見ないとこの作品の広がりというか深さもわからないこともまた事実・・・。
たとえば「社長就任おめでとうございます」という3作共通のシーンには大爆笑したが、これって3作続いた共通のプロットによって倍増するタイプの笑いのような気がする。
考えてみれば、皿袋の登場にしたってこの作品がシリーズ最初の観客にはある意味唐突なわけで・・・
後藤ひろひとのなかには、すでにBig BizやBigger Bizの世界が当たり前のようにそこにあるという前提のシーンがずいぶんある。いい加減な松尾のものまねしかり、兎の看板しかり、シナトラとトム・ジョーンズなんかもそう・・・
ただ、今回いままでの2作と違っていたのは、篠原ともえをスタンダードな感覚の持ち主として舞台上に存在させたこと。これまでの2作はみんなどこか普通と違っていてそのベクトルの違いが、まるでフォーカスがゆっくりと合うようにひとつのBig Bizに集約してくところに面白さがあったのだが、その集約のためのメソッドが既知のものになり、なおかつ同じパターンの繰り返しの面白さを出そうとすると、やはり対比のための鏡のような存在が必要だったのだろうと感じた。そこの部分だけ今までの持ち駒では役にたたなかったともいえるのかもしれないが・・・
篠原ともえは、演技に硬質であるがぶれがないコアのようなものがあって、不器用な純粋さのようなものを表現させたら右に出るものがいないのではと思わせるほど今回の演技にはまっていた。すりガラスのむこうにうつるような本音の表現に彼女が持つ天性の魅力とそれをはめこんだ後藤・G2の作劇のうまさを感じた。また、スプーキーハウスの時の彼女に比べて、演技の間のようなものが格段によくなっておりはめこまれるだけの度量を彼女が見につけたようにも思えた
初めてという意味では菅原永二もシリーズ3作目にして初登場だが、かれの演技にはある種の透明感がある。それが今回の作品には非常に良い目に出ていたような気がする。
少なくとも彼の雰囲気には嵌められるだけの十分な説得力があったし、また、社長就任に導かれるための無垢さのようなものも表現できていた。1作・2作ですでに現出していたキャラクターではそうはならないはず。粟根や坂田の使い方の今回の使い方の贅沢さにしてもそうだが、後藤・G2のキャスティングの妙には敬服するしかない。
一方で、与えられた役を舞台にフィットさせて膨らませていく、定番キャラクター役の役者たちの才能にも、舌を巻く。八十田のかもしだす雰囲気や松尾の根拠のない押しの強さはしっかりとBig Biz以来の世界をBiggest Bizに引き継いでいくのだが、その彼らの舞台上での力加減が絶妙なのだ。一番感心したのは皿袋役の松永で、出番のそれほど長くない彼女が舞台をさらう何分かのパワーはこの芝居のもつ重量のようなものをしっかりと受け止め、ストレスなく客席を物語の展開の渦へと引き込んでいく。
松永に関して言えば皿袋であるときの柔らかい演技と、サラになってからのタフな演技双方に、まるでホームグラウンドでのゲームのような伸びやかさがあるのがよい。特に今回の絶好調部分でのサラは最後の部分で逃げない演技というか貪欲さのようなものがしっかり出ていて、そのあとのメンバー解散に関する醒めた彼女の言葉を鮮やかに照らし上げる。絶好調のサラは今回も観客をたっぷり幸せにしてくれるが、今回のサラはその先にこそ真骨頂がある。彼女のちょっと落とした声が表現するものの深さ、そのトーンや横顔から浮かび上がるものの味わい深さにこそシリーズ最高のサラの演技の果実があると思う。
また、三上市朗の持つクールさも彼女の演技をしっかりと引き立てていて、彼の演技の強さだけでなくこの人の持つ演技の懐の深さというか卓越性を感じた。
正直なところ、同じ最初のシーンが繰り返されておちになるような構成であってもその中身は今回よりBig Bizの方がずっと鮮やかだし、最後のシーンの切れだけでいえばBigger Bizの方が上だと思う。
しかし、さまざまな過去2作のBizのうまみというか要素を織り込んで醸成させたものは、これまでのシリーズにはない味を見事に醸し出す。熟成したものの味わいに鮮烈さはないが、奥行きは間違いなく深い。
いいかえれば単純にあたらしいプロットを提示されてそれを楽しむということだけではなく、ひとつの構築した世界をいつくしむようにつなげて行く作業の秀逸さがこの作品の持ち味ではあるまいか・・・。
さらに言えば、物語はもちろんのことキャラクターにも熟成があるわけで、それらはきっと後藤フリークの観客が自らの中に構築したバーチャル世界に生き続け、今後の後藤の作劇にとっても大きな財産になっていくに違いない。
そのようなバーチャル世界の出来事を円熟と呼ぶかマンネリと呼ぶかは意見の分かれるところであるが、いずれにせよ「踊る大走査線」の戦略を髣髴とさせる後藤・G2の企みに乗せられる快感までおまけについた今回の作品であった