日時 劇団名 タイトル 会場

’06.11月19日 

阿佐ヶ谷スパイダース
イヌの日 下北沢本多劇場
作・演出・出演 長塚圭史
  
出演
内田慈・伊達暁・美保純・大堀こういち・村岡希美
八嶋智人・釼持たまき・中山祐一郎・松浦和香子・玉置孝匡
水野顕子・大久保綾乃

この文章にはいわゆるネタバレがあります。ご了承のうえお読み下さい

劇評


stage review 2006

評価

★★★★★★★★★☆

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もし、この作品を映画にするとしたら

かなり雑な感じのものが出来上がったのではないでしょうか

物語設定に理論武装が乏しく、個々の登場人物の行動にも

裏打ちのようなものが少ないですから・・・

映画が映し出す物語の背景は

観客〜観るとずいぶんチープなものになってしまうような気がします。

 

しかしながら、舞台の上だと、

このようなラフな設定がなりたってしまうから

演劇は面白いわけで・・・

作者が見せたいものだけにライトを当てて

役者がその中で動くと、

まるで魔法のように素では見えない世界が観客に浮かび上がってきます

地上で暮らす人間の愛憎にしても

登場人物どおしの関連性がとてもあいまいで

かなりデフォルメされているにもかかわらず

誇張された部分はありふれた物語といったテイストで抵抗なく観客に伝わっていく。

それは舞台のトーンや話のもっていき方、

さらには役者の力量の部分でもあるとは思うのですが

砂上の楼閣であっても統一したある世界がしっかりとそこに現出するのです

 

あやうい地上の関係を現出させておいて、

拉致された子供たちの世界が提示されます。

最初こそ、彼らの怯えや支配されることへの苦渋が現れる部分が表現されるものの

次第に被害者のおびえや弱さの向こうにある

拉致されたものたちのずるさや強さが提示されていきます

拉致されたものたちの自由、制約の中での幸せ・・・

防空壕の壁のように荒削りで雑然とした表現ながら

彼らの動作には理詰めだけでは作れないような存在感があって

よけいな設定上の矛盾など吹き飛んでしまう

 

結局作家が描きたいことがしっかりとあるから

かなり無茶な台本であっても

それをさらにねじ伏せるような真実があって

この芝居は成立しているということなのだと思います。

事実無茶をしなければ表現できない真実もあることに

観客は次第に気が付いていきます

そこに付随するのは居心地の悪い空気のようなもの

妙な居心地の悪さを含めてこの芝居の表現なのだろうし

居心地の悪さがなければ表現できないものは

同時に観客にとってその存在を否定し得ないなにかで

その70%はどこか腐敗していくような弱さから来ていて

30%は腐敗した弱さを身にまとうおぞましさから来ている様な・・・

 

でも長塚さん、最後にそのことが観客に伝わっているかどうか

不安になったのではないでしょうか

ラストはもっと突き放したものであってもよかったのではという

気がします

その世界を描く鬼はやっぱりその世界にフォローの手を差し伸べてはいけません

 

役者たちは本当に自分の個性で芝居をしていて

いずれもよい出来だったと思います。

美保純は初見ですが、その直情的な部分と愚かさをしっかり演じ切って

物語にリアリティを与えていました。ちょっと淫靡な部分も持ち合わせていて

それが地上の物語に一種の重さを与えることに成功していたと思います。

伊達暁も切れ方にちょっとためがほしい気はしたものの

彼の中に巣くったロジックはしっかり表現していたし

内田慈も正常さが揺らぐあたりの演技は非常にしっかりしていて

観客を十分に芝居に引き込んでいました。

大堀こういち、村岡希美はそれぞれが持つキャラクターにのった感じはあるが

安定した演技が光った。水野顕子、大久保綾乃も出番は短かったが

しっくりとした演技だったと思う

八嶋智人は役者達の中でも一歩抜けた感じ・・・。

切れが違う・・・

中山祐一郎の芸術的なハイテンションを見事に押さえながら

玉置隆匡の重さを持った演技にもしっかりと対応していく

軽やかでありながら場にしっかりとなじむその柔らかさは

昨今の役者の中でも出色だと思います。

剣持たまきと松浦和香子には透明さがしっかりありました。

二人が持つ透明感はかなり違うのですが、

どちらも無垢な部分がないと構成が危うくなる舞台で

しっかりとしたトーンを作り上げていたと思います。

 

全体にある種のパワーがあって

観るものを飽きさせない舞台・・・。

この舞台は彼自身の演技も含めて、長塚が表わそうとした世界を

表現する一番効率的なやり方だったのかもしれません

 

結局そういう話なのですから・・・