日時 劇団名 タイトル 会場

’06.12月23 日 M 

パルコプロデュース
みんな昔はリーだった 渋谷パルコ劇場
作・演出・出演 後藤ひろひと  

堀内 健・池田成志・京野ことみ・伊藤正之・竹下宏太郎
瀬川 亮・熊井幸平・松角洋平・板尾創路

この文章にはいわゆるネタバレがあります。ご了承のうえお読み下さい

劇評


stage review 2006

評価

★★★★★★★★★☆

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後藤ひろひとの作品は登場人物が群れの中に埋もれることを許さない。ひとり一人の個性を本当に丁寧に描く。

それも、少年時代の回想から大人になってからの世界まで。心の綾を織り上げながら、あせることなくじっくりと人を描いていく。

それゆえ個性的な役者が必要になるし、また役者を生かすすべを後藤ひろひとは十分に心得ている。

 

物語はそれほど複雑ではないのだが、見せ方に工夫がある。伯父さんと甥の会話から浮かんでくるひとつの物語。少年時代の多感な一年に時代を彩ったブルースリーの映画に影響された大人たちの今と回想。さらにはひとりの転校生をめぐるものがたり。そして同級生のひとりの少女の物語。

堀内健にはきちんと彼にあった物語が与えられる。彼が持つものを借景にして当て書きしたようなキャラクター。伊藤正之の冷静な部分を狂言回しに使って、池田成志にはちょっと金持ちのいやらしさを出させて・・・。竹下宏太郎にはダンサーの資質を生かしてストイックで内気な少年を演じさせる。しかもパンチラインにはダンサーのもうひとつの側面まで使って。瀬川亮のちょっと洗練された部分をそのまま帰国子女のキャラクターにはめこんで・・。

ずるいといえばずるいのだが、ただそれぞれの個性を借景にしているわけではなく、デフォルメして組み合わせて・・・、最後の仕上げにブルースリーの時代の薫りをふりかけて・・・。

じっくりと心が温まるコメディーに仕立て上げた。

 

まあ、古きよき時代のいじめの話といえなくもない。 個性にあった役を演じ切らせることとあいまって後藤ひろひとの冷徹な視点は、隠し味にいくつものエピソードにビターなテイストを物語に与える。

最初の伯父と甥の会話のシーンがしっかりとした物語の伏線になっていたり、人が相手を排斥する単純かつコアになるような真理が描かれていたり、一方で人間関係の再生の物語りがあったり・・・。終わってみて一番すごい力技だとおもったのは竹下宏太郎がぎりぎりまでシャイな部分を保っていたことだが・・・、それらが滑らずに観客に受け入れられたのは、後藤ひろひとが紡ぐ物語たちの側面にしっかりと厳然とした真理を埋め込んでいるからだと思う。

口当たりとは裏腹に実はとても骨太な作品なのである。

 

役者で一番印象に残ったのは京野ことみ、彼女のなにかをかすかに封じ込めたような瑞々しさにはとてもひかれた。個性溢れる男優たちに埋没することなく、かといって不必要に前にでることもなく・・・。演技のバランスがとてもよいのだ。また、抑える演技でもはじける演技であっても演技にゆがみがないのがよい。力みがないというか、水溶性の浸透圧で観客の心に入っていけるというか・・・

 

板尾創路もよかった。切れというよりゆったりとした間に重さを乗せていくような演技であったが、舞台に対する熟練を感じるのだが、動荷に演技にくせがなく、ラストシーンに観客を導くためのしっかりと平均したテンションを観客にかけることができていた。

熊井幸平は合格点であったが、板尾にもうすこしがっちりとぶつかっても良かったような感じがする。少なくとも私が観たステージでは板尾にあしらわれていたような感じがあった。

堀内健は初見、風評で不安を感じていたのだが、期待していた以上の大奮闘で実はがっちり芝居を支えるだけの力を内在していることを証明して見せた。しいて言えば、演じる役の中に堀内が持つ素の部分がうきあがることが何回かあり、そこが多少気にはなった。しかし、舞台を重ねていくうちに主役というよりは名脇役として大成するのではないかとさえ思わせる芝居であった。

伊藤正之、池田成志は本当に安定していて観客がしっかりと身をゆだねられる。伊藤の狂言回しには観客を物語に一歩踏み込ませるような味があり、ビターな場面でも観客を引かせないような包容力があった。池田成志の演技にはメリハリがあり、伊藤と反対側に強さがあるのだが、今回の役者達の中では得がたい力感が存在していた。その力感が終盤のシーンでしっかりと生かされたと思う。

瀬川亮は初見であるが、彼自身で舞台上に自分の居所をきちんと確保することができていて、演技がとてもクリアに見えた。

竹下宏太郎は見るたびに進化している。動けることが舞台上ではこんなに力になるのだ。

段取りを作り、台詞の外側を表現し自らの性格を表現しうる動きができる。それらの動きが美しいのも魅力で、しかも台詞にかすかにあった朴訥な感じがほとんど見られなくなった。私の中でもぜひ観たい役者になりつつある。

後藤ひろひとの演技は・・・。まあ、自分が作・演出をするのだから、いちばんおいしいところを持っていくのは当然なのだが・・・。まあ、ある意味やりたいホウダイのような感じもしたが、私個人的には死ぬほどうけた・・・。

冷静に考えると「Worst Of・・・」の時もそうであったように、きちんと徹するという演技であったとも思う。トーンを最後まで崩さない力はさすがで、全体にやわらかなテンションで進む芝居の香辛料的な役割を十分に果たしていた。

松角洋平、前説はちょっと苦しかったけれど演技のなかではキリリとしていて、見ていて気持ちがよかった

 

観終わった印象はというと・・・、柔らかな風が窓から入り込んできた感じ、でもね、あとからいろいろと見えてくるのですよ。自分達が中学生だった頃の価値観がどんな感じだったかとか、時間ってなにをつくりなにを奪っていくのかとか・・・。

後藤ひろひとの繊細な部分がぎっしりと詰まっているような・・・。

じわっとあたたかさとかすかなひっかかりがのこる佳作であった。